妊娠と薬、放射線
 妊娠初期に妊娠していることを知らずに薬を服用したり病院でレントゲン検査を受けて、胎児への影響を心配される方がたくさんいらっしゃいます。今月は妊娠初期の薬や放射線の影響について説明します。
 
催奇形性
 胎児に奇形を引き起こすことを催奇形性といい、薬や放射線など奇形を起こす可能性のあるもののことを催奇形因子と呼びます。催奇形因子には薬の他にも風疹や水痘などのウイルス感染、糖尿病による高血糖、葉酸摂取不足、39度以上の発熱などさまざまなものがあります。
 
妊娠と薬

1.薬による催奇形性の危険の高い時期とは?

 

 同じ薬をのんでも胎児に奇形が起こる時期と起こらない時期があります。胎児に奇形を引き起こす危険が最も高い時期は妊娠2カ月目(4〜7週)です。妊娠3カ月(妊娠8〜11週)に入ると胎児の脳や心臓など重要な器官はほとんど形態的に発育を終えているので、この時期を過ぎると奇形の危険は激減します。しかし、発生学的には妊娠4カ月までは催奇形性の危険があります。
 妊娠4週前、詳しくは、月経開始日から数えて32日以前に薬を使っても心配する必要はないと考えられています。もし32日目(受精後18日目)以前に薬によって受精卵が影響を受けた場合、胎児は発育できずに流産してしまいます。

 

2.妊娠5カ月以降の薬の影響は?

 

 妊娠5カ月以降に薬をのんでも奇形が生じることはありませんが、 薬の影響で胎児の発育や機能に障害が生じる可能性があります。この影響のことを胎児毒性と呼びます。一般的に使用頻度が高く、その影響が有名な薬は非ステロイド性消炎鎮痛剤です。市販の鎮痛剤や病院で処方される多くの鎮痛剤がこの種の薬です。この薬によって胎児の動脈管という大切な血管が強く収縮して胎児の状態が悪くなることがあります。妊娠中に使用しても比較的安全であると考えられている消炎鎮痛剤はアセトアミノフェンという薬です。
 

3.妊娠初期に催奇形性が問題になる薬剤

 

 妊娠初期の催奇形性が証明されている薬剤はそう多くはありません。特殊な病気の治療薬がほとんどです。専門的になるので詳しくは書きませんが、妊娠初期に使用する可能性が高い薬は、リチウム(躁病治療剤)、バルプロ酸(抗てんかん薬)、テトラサイクリン(抗生剤)などです。抗ガン剤、男性ホルモン作用のある薬、ワーファリン、腎不全治療薬の一部、ヨウ素、ペニシラミン(リウマチやウイルソン病の薬)などにも催奇形性があります。普通の方が使用することはほとんどないでしょうが、コカインやトルエンにも催奇形性があります。
 

4.その他の催奇形性の可能性があるもの

 

 上記に上げた薬剤以外で、コルヒチン(痛風治療薬)、カルバマゼピン(抗てんかん薬)、麦角アルカロイド(偏頭痛の薬など)などにもおそらく催奇形性があるだろうと言われています。多量のビタミンA、大量アルコール、タバコ、鉛などにも催奇形性があると言われています。
 

5.あまり催奇形性の心配がいらないもの

 

 一般の方々がしばしば心配されるものの、通常の使用量では奇形の危険はないと考えられているものには以下のようなものがあります。
 ヘアダイ、麻酔薬、アスピリン、非合法薬(マリファナ、LSD)、経口避妊薬、風疹ワクチン、電磁波、超音波など。

 
妊娠と放射線

1.放射線を多量に浴びると危険な時期は?

 

 放射線による催奇形性は原爆の生存者のデータによって詳しく調べられています。動物実験の結果からは妊娠4〜7週に放射線を浴びると胎児に奇形が生じる可能性があるのですが、実際には妊娠8〜15週が最も危険です。妊娠8〜15週の間に多量の放射線を浴びると小頭症や精神発達遅延を起こす危険があります。ただし、妊娠8週前や25週以降であれば、放射線をかなり浴びても精神発達遅延などは起こらないとされています。
 

2.どの程度の放射線を浴びると危険なのか?

 

 被曝線量を表す単位をradといいます。おそらく胎児の被曝量が10radを越えると胎児に障害が生じるだろうと考えられています。文献的には10radの被曝で4%の胎児に精神発達遅延が起こるとされています。しかし、一般の放射線診断で胎児被曝が5radを越えることはまずありません。おなかのレントゲン写真1枚での胎児の被曝線量は0.1rad、大腸や小腸の造影検査で2〜4rad、腹部のCT検査でも3.5radです。CT検査でも頭部や胸部なら胎児の被曝は1rad未満です。胸部のレントゲン写真で心配される方がいますが、写真1枚につき0.05mradつまり0.00005 radにしかなりません。
 要するに、ガンの放射線治療を受けるなどの場合を除き、診断のために行った放射線検査によって胎児に障害が起こることはまずありません。
 要するに、ガンの放射線治療を受けるなどの場合を除き、診断のために行った放射線検査によって胎児に障害が起こることはまずありません。

 
 以上、妊娠の特に初期における薬や放射線の影響について説明しました。実際に問題になることは少ないとはいえ、妊娠中には薬や放射線検査は必要最低限の使用にとどめるべきです。妊娠中に薬を服用する場合にはまず産婦人科医に相談して下さい。

 


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