妊娠と運動、スポーツ
 最近では妊娠中でも体を動かす方が妊娠経過や分娩によい影響を与えることが明らかになり、妊娠中の運動をすすめる施設が普及しています。妊婦運動の効果や不適切な運動をした場合の悪影響について簡単に説明します。
 
A. 妊婦運動の効果
 肥満予防、妊娠中の体力維持、妊娠中によくある不快な症状(腰痛、倦怠感、足のしびれやむくみ、静脈瘤など)の軽減などといった身体的な効果に加えて、精神的ストレス解消、出産に対する自信増大、妊娠生活を楽しくするなどの精神的効果があります。
 家庭の主婦は一般的に慢性の運動不足の状態です。普段から運動している方は運動をした際の代謝効率がよいので、少ない酸素を使って効果的な運動をすることができるため、お産のような重労働にも耐えやすくなります。
 
B. 運動と妊娠経過
 日本では胎盤が完成する15週頃を運動開始の目安としています。しかし、妊娠の初期にエアロビックダンスやジョギングを続けていても自然流産の率には変化がないという報告が1990年から1995年にかけていくつかなされています。
 また、妊娠中に適切な運動を行っている妊婦さんには、分娩時間が短くなる、帝王切開率が減る、分娩中の胎児仮死の頻度が減るなどのよい効果が確認されています。
 
C. 妊婦に適した運動、適さない運動 

適した運動

母児が安全な全身運動、有酸素運動、楽しい運動など。

例)水泳、エアロビックダンス、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、

交通事故の可能性があるサイクリングは個人的にはあまりおすすめしません。

適さない運動

激しい無酸素運動、急に止まったり飛び上がったりする瞬発運動、人や物と衝突したり転んだりする可能性のある運動、勝敗を争う性格の運動など。

例)バレーボール、バスケットボール、山登り、スキューバダイビング

 妊娠中はホルモンの影響で関節の靱帯がゆるんでいて不安定なので、関節の深い曲げ伸ばし、急な跳躍や方向転換などは避けて下さい。また、ストレッチをする場合は、ゆっくりと、伸びすぎないように最高になる前のところでとどめるようにして下さい。
 
D. 運動に適した時期
 日本では一般に妊娠15週〜35週位までが適当とされています。ただし、妊娠15週までの運動の危険性に関しては医学的にはあまり根拠がありません。また、水泳などは分娩直前まで行っていても出産経過には影響ないとされています。
 
E. 胎児に悪影響がないとされる運動の目安
 1.母体の心拍数は毎分140以内にする。
 2.激しい運動は15分以内
 3.何度も息こらえをするような運動は避ける
 4.運動後の体温を38度以下に保つ
 1〜3の範囲を越えると胎児の心拍数が上がりすぎたり逆に下がったりするおそれがあります。運動中に自分で心拍数をチェックして下さい。4に関しては、動物実験の結果から、特に妊娠初期の異常な体温上昇が胎児奇形をもたらす可能性、あるいは慢性の発熱が胎児の発育に影響する可能性があります。ヒトについての因果関係はまだ不明ですが現時点では注意が必要です。
 
F. 妊娠中に運動する場合の最も大切な注意点
 1994年のアメリカ産婦人科学会のガイドラインの中でも最も大切な点は以下の3点です。

1.

妊娠前から有酸素運動を習慣的に行っている方の場合、妊娠後も同じ運動を継続しても構わない。

2.

妊娠してから新たに運動を始める場合は非常に軽い運動から始める。妊娠前にほとんど運動をしていない妊婦には、ウォーキング以上の運動は勧められない。

3.

母児ともに非常に安静が必要とされる場合があるので医師の指示に従う。安静が必要な場合の代表例は、妊娠中毒症、双子以上の多胎、胎児発育遅延、その他心臓病などの合併症がある場合などです。

 
G. 妊娠中のウォーキング
 ウォーキングは立派な有酸素運動で、安全で手軽に誰でもできます。普通の歩行速度(毎分65〜75m)より遅めの毎分60m位の速度(電柱2本分)で1日30分、週3〜4回歩くと効果があります。靴はヒールの高さが3cm位のクッション性のあるものを選んで下さい。ウォーキングに限らず、妊娠中に運動をする際に大切なことは水分補給です。10〜15分毎にこまめに100〜200mlの水をのむと脱水を予防できます。
 
最後に
 妊婦水泳やマタニティビクスなどを行う場合に限らず、妊娠中に運動を行う場合は前もって必ず主治医のチェックを受けて下さい。特に心拍数が毎分140近くまで上昇する位の運動をする場合は、事前のチェックだけでなく、運動中および運動後にも医学的なアドバイスが受けられるような環境で運動して下さい。
 最後に誤解のないように一言申し添えます。妊娠中に運動をしたからといって必ず安産となる保障はないこと、また妊娠中には運動の有無によらず流産や早産が避けられないことがあることをご理解下さい。非常に安静が必要な方もたくさんおられることを十分に理解した上で、楽しく適切な運動を行えばメリットは大きいはずです。また、妊娠初期や中期に少々体を動かしても、そのために流産や早産になることはほとんどないということを理解して頂ければ、それだけでも十分な安心材料になるのではないかと思います。

 


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